自力で成功した女性フォーブス米国長者番付

2021-08-112023-04-28起業 Miyuki Sato

Cimplex Marketing Group Inc.はロサンゼルスに拠点を置き、グローバル事業を展開する日本企業を市場調査とマーケティングの分野で支援する日系の会社です。　

Forbesの長者番付はとても有名ですが、私が毎年楽しみにしているバージョンがあります。それが “America’s Richest Self-Made Women” で、「自力で成功した女性長者」と解釈できます。単に資産額で順位をつけるバージョンと異なり、起業、会社経営、専門職などを通じて自身で資産を築いた女性を取り上げ、国もアメリカに限定しています。その2021年版が8月に発表されました。

まずはランキングを見ていきましょう。Forbesは100位まで出していますが、ここではスペースの都合で20位まで引用します。

順位	名前	総資産 *(円換算)**	年齢	職業/収入源
1	Diane Hendricks	$110億（¥1.2兆）	74	屋根建材の卸売の創業者
2	Judy Faulkner	$65億 (¥7150億)	77	電子医療記録ソフトウェア会社のCEO
3	Meg Whitman	$63億 (¥6930億)	65	テック関連会社のCEO （過去には、e-bay などのCEO）
4	Judy Love	$52億 (¥5720億)	84	ガソリンスタンドチェーンのオーナー
5	Marian Ilitch	$44億 (¥4840億)	88	ピザ販売チェーンのオーナー
6	Johnelle Hunt	$41億 (¥4510億)	89	北米輸送会社の創業者
6	Thai Lee	$41億 (¥4510億)	62	IT企業のCEO
8	Lynda Resnick	$40億 (¥4400億)	78	135,000エーカー農園のオーナー
9	Gail Millern	$32億 (¥3520億)	77	自動車ディーラーのオーナー
10	Doris Fisher	$29億 (¥3190億)	89	GAPの創業者
11	Alice Schwartz	$29億 (¥3190億)	95	ライフサイエンス研究および診断薬市場製品会社の創業者
12	Oprah Winfrey	$27億 (¥2970億)	67	テレビ司会者、プロデューサー
13	Elaine Wynn	$22億 (¥2420億)	79	リゾートホテルの株主
14	Peggy Cherng	$20億 (¥2200億)	73	ファストフードチェーンのCEO
15	Sheryl Sandberg	$19億 (¥2090億)	51	FacebookのCOO
16	Rihanna	$17億 (¥1870億)	33	歌手、コスメブランドのオーナー
16	Jayshree Ullal	$17億 (¥1870億)	60	ITネットワーク会社のCEO
18	Safra Catz	$16億 (¥1760億)	59	OracleのCEO
19	Jenny Just	$15億 (¥1650億)	53	投資会社の創業者、パートナー
20	Eren Ozme	$14億 (¥1540億)	62	航空機・宇宙船の開発製造会社の社長、オーナー

＊注） $1 = 110円　2021年8月の為替に基づく換算

上位26人が$10億 (1 billion) 以上の資産を持つビリオネアで、この人数は過去最多となっています。

女性が自力で成功する分野

今年で7回目となるこの番付をずっとウォッチしてきて、女性が自力で成功する分野に特徴があることに気づきました。それが以下の3つです。

１．ファッションやコスメなど、美を売るビジネスが多い
２．歌やトークといった「芸・才能」を売る職業が多い
３．小説家がランクインしている

１を見ると、美は女性が才能を発揮しやすい分野であると分かります。この分野で最も順位が高いのがアパレルブランドGapの創業者であるDoris Fisher氏の10位 ($29億) です。ほかにも高級ブランドを展開するTory Burch氏 (31位 $9億) 、Proativなどのスキンケア商品を次々とヒットさせたKathy Fields氏とKatie Rodan氏 (ともに47位 $6.75億) 、ファッションデザイナーのVera Wang氏 (61位 $5億) などがランクインしています。

２で最も順位が高いのは、12位のOprah Winfrey ($27億) です。日本ではあまり知られていませんが、Oprahは女性から絶大な人気を得る司会者で、現在はプロデューサーとしての手腕を発揮しています。今年ビリオネアの仲間入りした歌手のRihanna (16位 $17億) 、お騒がせセレブのKim Kardashian West (24位 $12億)、その異父妹であるKylie Jenner (51位 $6.2億) は、芸能活動に加えて自身のコスメブランドを持っています。資産の多くはその収益から来ていると見られており、やはり女性の支持によって成り立っています。

３はかなり面白いと思いました。なぜなら男性版に小説家はまったく入ってこないからです。78位のNora Roberts氏 ($4.2億) と80位のDanielle Steel氏 ($3.8億) はいずれもロマンスノベルの小説家です。彼女たちの読者は？いうまでもなく女性です。私はあいにく読んだことがないのですが、2人の作品は翻訳されて世界中で出版されており、日本語版もあります。

こうして見ると、女性が成功するには同性の支持を得るのが賢い選択で、大きなリターンにつながる事業計画である、と言えます。

トップビリオネアは堅い業界

では女性は、女性をターゲットにしないと成功できないのでしょうか？いいえ、そんなことはありません。実際、上位9位までは美や芸とは関係のない、堅い業界で地位を築いた人たちです。

1位のDiane Hendricks氏は4年連続トップ、総資産は$110億 (1.2兆円) です。今年初めて10 billion超えが出ました。世界各国の男女を含む全長者番付では300位くらいですが（昨年のデータ）、日本版に当てはめると孫正義氏（ソフトバンク）、柳井正氏（ファーストリテーリング）、滝崎武光氏（キーエンス）に次いで4位にランクインします。

Hendricks氏がすごいのは、建設というアメリカでも超がつく保守的な業界で、資材卸売業という女性とは縁遠いビジネスで成功した点です。屋根職人であった夫と1982年にABC Supply社を共同創業しますが、夫が死去した2007年以降は単独経営者となってビジネスの手腕を発揮、競合を買収するなどで会社を業界最大手に成長させました。

2位から9位も、医療、IT、ガソリンスタンド、農業、物流、自動車ディーラーなど、堅い業界ばかりです。もちろん皆が起業家というわけではなく、既存の会社のトップに立って富を築いた人もいます。これらの様々な成功例を見ると「女性だって化粧品以外で勝負できるんだ！」と心底勇気づけられます。

もっと出てくるはず　若手、テック、ビジョナリー

就労における男女格差は世界的な関心ごとですが、長者番付にもそれはよく表れています。単純な資産額で番付すると、女性長者の上位を占めるのは親や配偶者から資産を受贈・相続した人たちばかりで、その額もHendricks氏の数倍という規模です。アメリカでも、富は人からもらっている女性が多いのです。彼女たちは自力番付には含まれていません。

女性自力長者は年齢が高い人が多く、富を築くまでにそれなりの時間がかかっていると思われます。男性の場合、1位のJeff Bezos氏 (Amazon) は57歳、2位のElon Musk氏 (Tesla, SpaceX) は49歳、とっくに一線を離れている4位のBill Gates氏 (Microsoft) でさえ65歳、5位のMark Zackerberg氏 (Facebook) は36歳と、若くして上りつめる人が目立ちます。彼らには「テック」という共通項がありますが、今後はテックで起業して若くして上りつめる女性が増えてもおかしくありません。そういう人たちがもっと出てくる社会でなければならないと思います。

また、女性起業家にはまだ「ビジョナリー」が少ないと言われます。「先見の明を持つ人」と解釈され、例として最も引き合いに出されるのが、Apple創業者の故Steve Jobs氏です。同氏は「個人向けのコンピューター」という発想からMacintoshを、「パソコン機能をポケットに」という発想からiPhoneを世に送り出しました。アメリカで巨額な投資が行われるのは目先の収益ではなくビジョンに対してなのです。AmazonやTeslaが収益を出すまでに長い年月がかかっても、投資家が離れていかなかったのはビジョンに賭けているからです。今後は女性からも世間が驚くようなビジョンが出てくることが期待されます。

とは言え、女性が単独で1兆円規模の財を築くことができる土壌、カリブ海の小国バルバドス出身のRihannaをはじめとする移民がビリオネアになれる土壌というのは、アメリカのダイナミズムに外なりません。移民は毎年トップ100の2割ほどを占めていて、アメリカンドリームが女性にも健在であることを示しています。女性が目指す先輩たちが、とてつもなく高いところにいるという事実は、大いに祝福されるべきではないでしょうか。