ビジネス情報のGoogleになれるか?LinkedInの可能性

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Cimplex Marketing Group Inc.はロサンゼルスに拠点を置き、グローバル事業を展開する日本企業を市場調査とマーケティングの分野で支援する日系の会社です。 

私はテックな人間ではありませんが技術が大好きです。進化する技術をどのように仕事や生活に取り入れて、社会がどのように変わっていくかを考えるのが好きです。一般人の視点に過ぎませんが、アメリカに住んでいて何度かハッとするような革新が世に出る姿を目撃しました。最初の経験は渡米した1995年。インターネットと電子メールにハマり、それらを使って買い物できるAmazonのビジネスモデルに感動して、立ち上がって間もないサイトで最初の注文をしたことです。

昨年、久しぶりにハッとする企業がありました。それはLinkedInです。LinkedInを簡潔に表すと「ビジネスに特化したSNS」ですが、それは出発点に過ぎません。日本ではまだ利用が限られているLinkedInの強みと可能性をここでまとめてみたいと思います。

ネットワーキングではないSNS

LinkedInが知られるようになったのは2008年前後。私もその頃に登録した記憶がありますが、「ビジネスに特化したSNS?ピンとこないなぁ」という感じで、いまいち活用方法が分かりませんでした。つながっている人(Network)が限られるのでタイムラインにフィードが入ってこないし、自分も投稿する気になりません。誰かが転職したり、勤続〇年を迎えたら「Congratulations!」ボタンを押すくらい。求人広告サービスが始まったので、仕事を探している人達は常にチェックしていましたが、自分には特に関係ないと感じていました。2011年に同社が上場した時も、どこに将来性があるのかよく分かりませんでした。

そのうちNetwork外の人から時々メッセージが入るようになりました。「こんな求人があるので応募しないか?」「プロジェクトチームに入らないか?」「あなたのビジネスにぴったりのサービスがある」といった内容です。自分のプロフィールに掲載しているのは、いってみれば公開レジュメ。それを見て知らない相手にピンポイントで連絡したり、逆に連絡を受けたりする利用方法が可能になりました。たくさんのNetworkを持って交流することにも意義はあるけれど、そうではない使い方が広がり始めたのです。

どこにもなかった公開社員名簿

リンクトインでマーケティング
企業の担当者検索ができるLinkedInの有料サービス、Sales Navigator

FacebookやGoogle+と同じく、LinkedInは「企業ページ」の設定を可能にしています。会社やサービスの概要を記入し、投稿できる点は他と変わりませんが、特徴的なのは「この会社の従業員を見る」というリンクがあり、クリックするとその企業に関連する個人メンバーがずらっと出てくることです。例えばLinkedInの企業ページからは、約1万5000人の従業員がリストアップされます。個人ページが公開レジュメなら、企業ページはいわば公開社員名簿。今までインターネット上に出てこなかった内部情報で、Googleも手が届かなった部分です。

当然これはLinkedInの貴重な資産になります。営業職に就いている人にとって、企業リストや担当者リストは必要不可欠な情報です。LinkedInは条件に沿ってターゲットとする企業や個人を検索、絞り込み、リストアップできる有料サービスを導入し、営業ツールとして浸透させていきます。こういった機能の充実がLinkedInの大きな飛躍につながり、無料だから利用する他のSNSと一線を画していきます。

ビジネスの活性化が企業ミッションに

LinkedInは2012年にSlideShareという企業を買収して傘下に収めます。SlideShareは簡単に言うとYouTubeのスライド版。誰でも無料アカウントを作ってパワーポイントまたはPDFのスライドを自由に投稿することが可能です。その内容は大学のレポートから会社案内、珠玉のプレゼン資料まで実にさまざま。仕事に使えそうな有益情報、参考にしたいパワポの組み立て方、ユニークなデザインなどがあって、つい見てしまいます。投稿者は自分や会社の宣伝につながります。最近は日本語のスライドもかなり見かけるようになりました。

LinkedInはさらにeラーニング企業を買収してメンバーにビジネス講座を提供、ビジネスパーソンの実務やスキル向上につながるサービスに力を入れていきます。SNSから出発して広い意味で「ビジネスの活性化」が企業ミッションとなったわけです。2016年にMicrosoftに買収されてしまいますが、両者はLinkedInの独自性を保つことで合意し、社名やブランド名、基本的なオペレーションは変わらないことになっています。買収の背景には、MicrosoftがOffice 365といった企業向け製品を売るためにLinkedInが最強のプラットフォームになると見込んだことが上げられています。

ページがないと信用度が落ちる?

LinkedInは世界200の国と領域で4億人以上のメンバーを持ち、サイトアクセス数は世界24位の実力です。アメリカ国内では1億4300万人と、総人口の約半分がメンバー登録しており、年間2万社以上がLinkedInの求人サービスを利用しています(*1)。これだけのビッグデータを集計すると、かなり重要な経済指標が出てくることになります。同社は定期的に雇用や労働に関する統計を発表していますが()、こういったライブな情報のほうが政府発表の統計よりも参考になる、と思う今日この頃です。

アメリカの企業も以前は内部情報が漏れることを懸念していましたが、今は従業員にプロフィール欄を定期的に更新するよう勧めたり、LinkedInに関する規定を設けたりと、前向きな利用方法を探るようになりました。従業員が任意でつくる会社データが、ウェブサイトや他のSNSといった一部の人間に管理された媒体と違う価値を出すと考えているからです。「クリーンプラクティス」のアピールにもつながります。最近は取引相手の信用チェックに使われることも多く、企業や個人のページがないと、それだけで信用度を落とすことになり兼ねません。以前の投稿で紹介しましたが、実に企業の7割がLinkedInをソーシャルメディアマーケティングに利用しているのです。

一極集中への反動

こういった現状から、当社では海外と取引する日本企業にLinkedInの企業ページ設定を勧めています。私自身もそうですが、仕事関係の情報をLinkedInで探す人が多くなり、「ググる」よりもピンポイントで欲しい情報にヒットする確率が高くなっています。企業にとっては、自社のウェブサイトをGoogleに登録するのと同じくらい、LinkedInの企業ページを持つことが重要になっているのです。

Googleはインターネット上のありとあらゆる情報を掌握してきましたが、一極集中が招くマイナス面も近年ひんぱんに指摘、議論されています。情報源の分散がインターネットの課題となり、LinkedInは企業情報、SlideShareはスライド、Pinterestは画像のように、検索エンジンが特化できていない分野を攻めてくる企業が増えています。「Googleに聞けば何でも教えてくれる」という時代から、より正確で深い情報を異なる情報源に求めるようになってきています。その意味において、LinkedInが握っている企業情報の価値は非常に大きいと思うのです。

出典:

*1 LinkedIn – Workforce Report December 2017 US

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Miyuki Sato

ロサンゼルスに拠点を置くマーケティング会社、Cimplex Marketing Group, Inc.の代表。専門は市場調査。在米20年以上、英語学習の本を4冊出版している。当ブログではビジネス英語に関する記事を多数投稿。