アメリカで販路を拡大する日本酒、大手小売店にも浸透
Cimplex Marketing Group Inc.はロサンゼルスに拠点を置き、グローバル事業を展開する日本企業を市場調査とマーケティングの分野で支援する日系の会社です。
日本から輸出する日本酒(清酒)は世界各国で飲まれていますが、輸出先として常に上位にランクインするのがアメリカです。近年、アメリカ国内の販路に広がりが出て、大手小売店で日本酒が販売される光景も決して珍しいものではなくなっています。
目次
日本酒の輸出先、第1位はアメリカ
日本酒造組合中央会は2022年の日本酒の輸出が数量、金額ともに過去最高を記録した、と発表しました (*1)。アメリカは、国別の輸出量において9083キロリットル(前年比2.9%増)で前年に続き1位、輸出額では109億2900万円(前年比14%増)で、中国に次いで2位となりました。
図1にあるように、過去10年間の対米輸出は、パンデミックの影響を受けた2020年を除いて右肩上がりで推移しており、輸出額が10年間で約3倍に増加しています。感染対策規制による打撃が大きかった現地の外食産業も本格的に回復し、日本酒の需要はコロナ前を上回って確実に増え続けています。
アジア系や米系小売店にも日本酒コーナー
好調な対米輸出の背景には、日本酒の販路が着実に拡大していることがあります。特にカリフォルニアでは日本酒を取り扱う小売店が増え、消費者にとって身近なアイテムとなっています。
これまで日本酒の主要な販路は、日系のスーパーマーケットでした。カリフォルニアを中心に11店舗を展開するMitsuwa、カリフォルニアとハワイで11店舗を運営するTokyo Central / Marukai (ドン・キホーテグループ)を始めとする日系スーパーは、現地在住の日本人や日本食を好むアジア系などを主な顧客として、日本から輸入された食材を多く取り扱っており、日本酒もその一つです。
現在はアジア系の小売店にも、多種類の日本酒が置かれています。例えば、全米に約90店舗を持つ韓国系の大型スーパーであるH Mart。そのカリフォルニア州アーバイン店では、日本酒売り場面積(図2)が韓国系酒類よりも大きく、獺祭や久保田、八海山、初孫など120種類を超える商品が取り揃えてあり、店に欠かせない商品カテゴリーの位置付けです。
さらに酒類量販店でも “Japanese Sake” と書かれた日本酒コーナーが設けられ、幅広い銘柄が扱われるようになりました。カリフォルニア州タスティンのTotal Wine & Moreの店内に足を踏み入れてみると、2000平方メートルを超える売り場に1万種類以上の酒類が棚に陳列しきれないほど並んでいます(図3)。その一角にある日本酒コーナーには、人気の特別酒ブランドから米国産まで約80種類を見つけることができます。店舗全体においては小さなコーナーですが、こういった大型店への流通経路を開拓できたことは、日本酒業界にとって大きな前進です。
南カルフォルニアを中心に約190店舗を展開するスーパーチェーンのRalphsにも日本酒コーナーがあります。カリフォルニア州アーバインの店舗では、アルコール飲料売り場の約10%が日本酒に当てられ、6段の陳列棚に、約70種類の様々なサイズの商品が10ドルから50ドルほどで売られていて(図4)、普段の買い物ついでに購入できるほど浸透しています。
筆者は2017年から2020年までニュージーランドに住んでいましたが、一般的な食料品店や酒販店はもちろん、アジア系のスーパーでも日本酒を見かけることはほぼなかったため、この品揃えは大きな驚きです。
大手ディストリビューターが日本酒を流通
さまざまな小売店で、これほど充実した日本酒の取り揃えを可能にしているのが、米系ディストリビューターの存在です。アメリカの物流において、ディストリビューターは非常に重要な役割を果たしています。配送トラックや広大な倉庫を有し、商品の仕入、保管、輸送、卸売を一貫して担い、全米各地の卸売業者や小売業者に商品を流通させる巨大なネットワークを作りあげています。その流通網を強みとして、ステークホルダーに対して、取扱商品などに関する強い交渉力を持つ企業も多数あります。このような力を持つディストリビューターが日本酒の取り扱いに積極的になったことにより、大型店やチェーン店といった新たな販路への扉が開いたのです。
1898年創業のRepublic National Distributing Company, LLC(本社アトランタ)は、全米最大級のワイン、スピリッツのディストリビューターです。買収や提携により、今や全米38州をカバーする巨大ディストリビューターに成長しています。日本酒を専門的に扱う部門を持ち、全米42か所の事業所を武器に、BevMo!やTotal Wine & Moreなどの酒類量販店、大型チェーン店、米系スーパーなど幅広い販路を確立しています。
やはり大手のBreakthru Beverage Group(本社ニューヨーク)は、2020年に日本酒と日本のスピリッツを専門に扱うYama Divisionを設立しました。そのリーダーであるEric Swanson氏は「日本酒を始めとする日本の飲料は非常に独特で、ワインやウイスキーを好む消費者の新しいレパートリーとして、新たな付加価値を与える存在になるだろう」と述べ、 今後も日本酒の輸入、販売に強気な姿勢を示しています (*2)。
アメリカにはほかにも、日本酒を扱うディストリビューターが多数あることが、当社の調査で明らかになっています。特に米系企業は各商品を常に厳しい目で評価しており、売れるものしか取り扱いません。彼らが日本酒に意欲的なのは、小売での需要があるからにほかならず、店舗に設けられた売り場がそれを象徴しています。アメリカにおいて、日本酒は益々大きな市場に成長することが期待できそうです。
出典:
*1 日本酒造組合中央会 2023年2月3日プレスリリース
*2 Breakthru Beverage News 2020年3月4日