Cimplex Marketing Group Inc.はロサンゼルスに拠点を置き、グローバル事業を展開する日本企業を市場調査とマーケティングの分野で支援する日系の会社です。
アメリカの企業はここしばらく、魅力的な市場としてミレニアルズ(Y世代)に注目してきました。1977年から1994年生まれ、今年24~41歳のミレニアルズは人口8000万人とアメリカの最多世代に成長。前の世代と異なる価値観や消費嗜好を発達させたことから、新たなマーケットの形成に大きく貢献し、日本の食や文化を売るビジネスもその恩恵を受けてきました。
しかし2018年はその次のZ世代が存在感を高め、表舞台に出てきた年となりました。Z世代は1995年から2007年生まれで今年11~23歳、人口5600万人で17%を占めます。アメリカではgenerationを略してGenZ(読み方:ジェンジー)やiGen(読み方:アイジェン)といった俗称でも知られます。まだ大半が未成年で親と同居していますが、市場としても急成長中のGenZの特徴をここで紐解いてみましょう(*1)。
参政権のない高校生が証明するデジタルデモクラシー
GenZの存在感を知らしめるきっかけとなったのが、2月にフロリダ州の高校で起きた銃撃事件です。17人が犠牲になった惨事に憤り、生存した高校生たちが銃規制を求めるMarch for Our Livesという活動を開始、1ヵ月半後に200万人が参加するデモを組織し、史上に残る規模の抗議活動を行いました。
3月24日の初のデモ行進では数十万人がワシントンDCに集結、全米でも200万人が参加した
彼らの武器は何といっても「デジタルコンピテンス」。オウンドメディアで情報発信し、SNSで賛同者とつながり、クラウドファンディングでミリオン(=円換算で億)規模の資金を集め、ドローンで抗議活動を撮影してライブストリームを配信と、あらゆるデジタルツールを駆使し、結束、行動、発信の能力を見せつけてアメリカ中の度肝を抜いたのです。
幹部の高校生たちは、夏休みや連休を利用して各地を周り、若者を中心に銃規制を訴え、銃を支持する(=銃擁護団体から多額の献金を受けている)議員の当選を大幅に阻止することを目標にします。結果として、11月の中間選挙で連邦議会から35の銃擁護議員が落選し、さらに若者の投票率はここ数十年で最高の31%という数字を出しました。
選挙後にMarch for Our Livesは”We Made History”という勝利宣言を行いました。これは決して大げさではなく、つながる力を駆使したデジタル市民が政治を変え、歴史をつくったと言っても過言ではありません。若干16~17歳がこのような結果を導いたことに驚くばかりではなく、明らかに新世代が興隆し、時代の移り変わりを証明していることを、アメリカは実感することになったのです。
フーディ、ヘルシー・・・さまざまな「ネイティブ」
最近「XXネイティブ」という俗語が多数つくられていますが、GenZは上記の高校生に代表されるように「モバイルネイティブ」「ソーシャルネイティブ」とよく言われます。彼らは、スマホやSNSの存在を当たり前とする最初の世代で、それらをツールとして使う方法を熟知しています(おそらく企業のマーケティング担当者よりも)。
他にもGenZは「フーディネイティブ」と形容されます。フーディ(foodie)は「食通、食べ物への興味が深い人」という意味で、「美食家」を意味するgourmetよりも好まれている言葉です。アメリカの食はこの20年で大きく変わりました。移民が持ち込んだ食文化が多様性と質の向上に貢献し、インターネットによる情報の広がりでアメリカ人も色々な食べ物を試すようになりました。GenZは「食べ物に興味を持つことが当たり前」の最初の世代となったわけです。
並行して「ヘルシーネイティブ」という定義もあります。健康や食の安全が叫ばれるようになり、それらに対する高い意識を当然として育った最初の世代がGenZです。バブル時代に「一億総グルメ」といわれた日本では、食や健康へのこだわりはかなり前から定着していますが、アメリカもようやく追いついてきた形です。つまり、ここに商機があるということです。
マスを形成しない個性重視世代
さらにGenZの大きな特徴として、その多様性があります。15歳以下の人種構成で白人と非白人の割合はほぼ同じ、移民を親に持つ、いわゆる二世も多数います。異なる外見、バックグラウンド、価値観を持つ級友と机を並べ、育っている彼らが「オリジナリティ」を尊重するのは当然と言えます。
GenZは「マス(大衆)」を形成せず、自分の価値観に合うものを幅広い選択肢から選びます。例えばメディア。彼らは全米放送のTVを視聴せず、YouTubeやNetflixでお気に入りのチャンネルや話題の動画を見るのが習慣です。また人と同じものを所有、消費することも好まず、大量生産する大企業に対する懐疑も持っています。これまでマス販売を得意としてきた企業が頭を抱える一方、スモールビジネスにはチャンスが広がっています。
例としてクラフトビールがあげられます。若者にBudweiserやCoorsといったアメリカを代表するビールを好む人は少なく、自分のお気に入りのクラフトビール銘柄がある人が6割を超えます(*2)。全米に6000以上のクラフトビール醸造所ができ、飲酒年齢人口の実に75%は自宅から10マイル(16km)以内に醸造所があるほど、こだわりを持ったビールは人気なのです(*3)。
ミレニアルズの延長・・・と思ったら大間違い!
戦後に生まれたベビーブーマーとX世代は、物質による豊かさを享受、謳歌してきた世代です。これに対しモノに囲まれて育ったミレニアルズは経験を重視、量よりも質に目を向けてアメリカの価値観を大きく変えました。GenZもその傾向を受け継いでいると言えます。ですが「ミレニアルズの延長とは思わないほうがよい」というのがマーケティング業界で一致する意見です。
例えばWhatsAppのように、ミレニアルズがcoolと思っていてもGenZにとってはcoolでないブランドがあります(*4)。感覚のギャップはだんだん顕著になっていて、これまで流行をつくってきたミレニアルズに対し「それダサくない?」とGenZが反逆を始めている形です。ミレニアルズも年長組はもう中年。家庭を持ったり、キャリアアップに真剣だったりと、流行から興味がそれる年齢でもあります。そこに、成人し始めたGenZがトレンドセッターとして入り込んできているわけです。
出典:
*1 世代区分には諸説あるが、当社はグローバル調査会社のMintelが採用する区分を使用
*2 Cimplex Marketing Group, Inc.の調査
*3 Brewers Association
*4 It’s Lit! by Google